私の実家のほうやら親戚やらが理容室や美容室をやっていたりするんだけれども、あの業界も日常的なサービス業であるわりには直球的な職人の世界なのだよな。
で、あの理美容室で使っているハサミというのは実は一丁で15万円とかしたりする。レディメードでそんな感じなんだけれども、職人の手に合わせて型を取ってオーダーメードで作ったりもするのでもっと高い時もある。なので研修生がうっかりハサミを床に落としたりするとそりゃもう怒られたりするわけですよ。
職人というかプロの世界。プロが使う道具はそんじょそこらのものと仕込みが違うし、それをまた培った技術で鮮やかに扱うことでお客様に最高の理髪を提供するといった世界。
そいった様にプロならではの道具の世界というものがどの業界にもあってしびれたりするものですよ。
ホームセンターで変えるような工具は所詮コモデティアイテムでしかないとか、そんな感じ。
そういったプロが使う道具に近いものを手にするとアマチュアでも一段上の作業ができたりするのも魅力なのだけれども、アマチュアはやっぱりアマチュアで今度は道具に振り回されて使いこなせなかったりしてみたり。使いこなせば確かに上質の作業ができるのだけれども、腕がついて行かなくてそこまで至れない。そしてその道具をちゃんと使いこなせる手腕を持つのがプロだったりして。
そういった視点でコンピューターソフトウェア業界を見てみるとちょいと興味深い。
職業プログラマの端くれとして会社でプログラムを組んでお給料をもらっている訳なんだけれども、会社で使っている開発機材(ひらたくいってPC)がプロという肩書きにふさわしい最上位のものかというと案外そうでもなかったりする。正直自宅で使っているPCの方が倍以上の性能を持っていたりする。
そいった光景は珍しくないどころか割と普通なんじゃないかなあ。個人持ちの方が早いマシンだとか、遅いマシンを3~5年使い続けているとか。減価償却とかクソ食らえでございますわ、とか思わなくも無い。
ソフトウェアの開発環境も安価になって、ぶっちゃけ VisualStudio とか Eclipce だったりするとアマチュアが手にしているものとまったく同じだったりする。となると、それは職業プログラマがプロとして誇りを持てる環境なのだろうか。
逆に言うとアマチュアにとっては良い話だったりする。
今や無料環境でそろえられる開発ソフトウェアで作れないものは無いといっても良い状況なんではないだろうか。プロが使う開発環境やライブラリを高いお金出して買えばより簡便に高品質なものが!ということもことソフトウェア業界においてはほとんど無かったりするし。
なんつーか、機密保持契約(NDA)の関係で開発に携われるか携われないか程度しかアマとプロの違いは無いのだろうか。
じゃあソフトウェアのプロってのは名前ばかりのいらない子なのかというとそれはそれで本質を見失っているかもしれない。そういった開発機材を手にしても、それを使いこなせるのが一握りの人間でしかないという実情があるからだ。
道具は手に入れやすいし、アマチュアにもチャンスはあるけれども、本当にその道具を使いこなして製品に足るプロダクツを生み出すことができるのがプロフェッショナルと呼ばれている人たちなのかもしれない。
ソフトウェア業界が抱えている過ちと苦悩はプログラムを工業製品として扱おうとしている歪みなんではないかと考えることがある。月日と人をかければいずれはできあがるといったそんな風に見ているのはまちがいで、本当は個人の優れた才能と職人技で作られているというのが実情なんではないだろうか。
でもそれだと企業としては回らないので、個人差をできるだけ無くしチームプレイで能力を平均化し行程と時間を見積もりやすくする必要がある。プロセス管理とチームマネジメントがソフトウェア業界でもてはやされる所以である。
開発機材や環境は入手しやすいし、誰でもプログラムを作成することはできる。でも、そのプログラミングを職にしようとするともう一段階上の技量が必要になってくる。なんとなくこれってミュージシャンや小説家、漫画家に近いところがあるんじゃないかなあ。
企業都合で定期的に作品を作っている(週間連載とか)というプロフェッショナル意識の高い作家もいるし、そういうのを回していけるアシスタント等のシステムもそろっている。でも、数年に一度のスパンで作品を作る芸術家肌の作家もいてみたり。
業界的に高い道具を高い技術で使いこなすことにより差別化ができないのならば、個人の才で差別化していくしかないのではないだろうか。