初音ミクとドーナツ

ここ数日話題となり、激しい議論が応酬されている初音ミク周辺の問題である「デッドボールPの『ちょっとHな』楽曲削除問題」について。
この件については静観をするスタンスであったけれども、あまりにもおかしな方向に転がっているみたいなのでちょっとだけコメントしておきたくなった次第。駄文におつきあいくださいませ。

削除行動についてはクリプトン・フューチャー・メディアから一応の声明が出されているため、これ自体は疑問の余地は無いと思う。もっとも、どの動画の事かははぐらかして書かれているためすっきりしない部分もあるのだけれども。
私が問題視しているのは削除決定そのものではなく、それが一般視聴者による通報によって起こされたという事にある。ピアプロブログでの報告においては以下のように書かれている。

今回、公序良俗に反する歌詞を伴う作品がニコニコ動画に連続的に投稿されているとの通告を一般視聴者の方より受け取りました。

この文を読む前に状況としての背景を理解しておく必要がある。
デッドボールPは「ちょっとHな」シリーズで人気を博した。「中だし」だの「妊娠しないから」といった刺激的な歌詞をミクに歌わせたというのももちろん話題の理由なのだけれども、それ以上に楽曲としての出来の良さとエッチだけでないドラマを含めた詩の物語性も高い評価を受けている。
「既成事実」のラストで泣きながらお別れを言うミクには胸を締め付けられる思いをしたものだ。
でまあ、作者への評判が上がると共に強烈なファン層を形成していくことになるわけだ。その上級のファンをさして「信者」と呼ばれる。そして光が強いほど影が濃くなるがごとくに、セクシャルなネタが受け入れられず信者を目の敵にする反対勢力が目立ってくるのです。こちらは「アンチ」と呼ばれてますな。
何が言いたいかというと、今回の問題は「信者」VS「アンチ」の諍いの結果であるということですよ。ここ最近のデッドボールP周辺においてはその信者とアンチのコントラストが強すぎると思っていた。
そうしたアンチの行きすぎた行動の結果、クリプトン・フューチャー・メディアへの通告という形になったのだと考えている。(おそらくは執拗な)通告をうけた以上、クリプトンもニコニコ動画もついには動かざるを得なくなったのではないかと。

だから「使用許諾」や「公序良俗」といったワードを議論しても空転するだけで、前向きな物は生まれてこないのです。
これまで初音ミクという現象に対しては「旧来然としたメディア」が仮想敵として据えられており、ユーザーとファンがその外部の敵に向かって主張することで団結とモチベーションを得るという構図があった。今回は本来味方であるはずのファンが暴走・分裂する形で、内部そのものが敵となってしまったのです。
これは典型的なコミュニティー崩壊の兆しであり、コミュニティの大きさが限界に達して自重崩壊を始めているものと捕らえている。

それじゃ削除処置が適当だったかというと、やはりちょっと失敗していると思う。作者不明なわけでもないし、本人も指摘されれば自主的に削除する様な人物であったはずなのに勧告で済まさず権利者削除としてしまった。
これをちゃんとメールで指摘して自発的に削除してもらう形にしていれば「デPついに名誉の削除勧告w」と笑い話で済んでいたと思っている。そうではなく、権利を振りかざしての強制削除という恐怖政治的な処置をしてしまったことはこの後じわじわと影響が出てくるのではないだろうか。(この前から起きてはいるけれども)
まあ、ニコニコ動画もクリプトン・フューチャー・メディアも人手が足りずきゅうきゅうしている様に見えるから、一般視聴者からのメールにいちいち丁寧な対応をしてはいられないのだろうなあ。

そんな状況を上手いこと表現しているなあとおもったのが、斑石うにもさんのBlogタイトルである「初音ミクブームのドーナツ化現象」
なにやら周辺だけが盛り上がっていて、本来ニコニコとクリプトンにとって最大の財産であるはずのクリエーターが恵まれていないといった指摘。(指摘自体はazuki-glgさんの「ヒット曲の栄光に立ちはだかる初音ミクという名のサイレン」が元記事)
上記記事は初音ミクブームを作り出したクリエーター達に金銭収入が為されないといったお話なのでコミュニティ騒動とは違うのだけれども根底に流れている問題は同じものであると見ている。
真ん中不在でドーナツだけがぐるぐる回っている様ではそのうち溶けてバターになってしまいますよ、っと。

といっても悲観しているわけでもなく、みんなもうちょっと上手いこと対応するだけでまだまだ楽しくやっていけると信じている。




You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can skip to the end and leave a response. Pinging is currently not allowed.

8 Responses to “初音ミクとドーナツ”

  1. eleea Says:

    正鵠を射たレビュー、いつも興味深く拝見しています。
    今回の事件は本当に残念でなりません。
    あまりの無粋さに、伊藤社長不在の間に独断専行されたのではと信じたいほどです。
    彼らは楽曲に鋭い集団ではなかったのか。
    民放基準とは、彼らの考える「健全さ」とは何なのか。
    色々あっても、まだ醒めたくなかったのですが。orz
    rerofumi様の作品構想にも規制が及ぶ事を考え、力が抜ける想いです。

  2. ななし Says:

    http://www.fumi2kick.com/rrtalk/archives/896
    読んでこのエントリー思い出しました
    今のこの風潮だと、企業としてのクリプトンはこう対応せざるを得ないですよねぇ
    「TV放送できるか否か」を基準にしてるところを見ると「いやなら見るな」は最早ネットでも通用しない世の中になってきたんだろうなぁと思ったり

  3. tsu Says:

    まず事前告知はニコ動のシステムから言って無理だと思う。ニコ動は問題があるなら言われたら削除しますよってだけで個別に連絡の仲介とかはしないだろうし…
    で直接連絡できなきゃMixi界隈までおっかけて連絡つけろってのも無茶だと思う。今回の場合でもニコ動のうp主コメントに連絡先でも書いとけばいきなり削除はなかったんじゃないかなとは思う。

    あと制限自体を非難する人はVOCALOIDというツールは声の提供者の人格権を最大限配慮しないとなりたたないってとこも考えてほしい。もともと普通の楽器にはない公序良俗うんぬんの規約も声を提供してくれる人を守るためのもので、そのへんはどうしても厳しくなるよ。

  4. rerofumi Says:

    > eleeaさん
    私は思いつきでやっているところがあり、構想もなにもないので関係ないかもしれません。ご安心を。

    > ななしさん
    対応せざるを得ないというのに同意です。
    なんでそういう立場になってしまったかはさておき。

    > tsuさん
    連絡が取れるSNSはmixiではなくはつねぎの方ですね。そこまで行けよというのが無茶かどうかはまあともかく。
    制限や手順は惜しいなあと思いますが、そこ自体はあまり問うてはいません。

  5. fine select Says:

    今回の件に関わらずニコニコ動画での違反動画は
    権利者に一方的に削除されている。クリプトンだけ
    ユーザーフレンドリーじゃない、強権的だと批判するのは
    おかしい。だが正直違反動画に対していちいち警告だの
    自主削除だの求めるなんてメーカーはやってられんだろ。
    ましてやクリプトンは10人もいない会社だぞ。
    ぶっちゃけ約款守って活動してもらいたいって思って
    るだろう。迷惑な話だ。

    それとこれは単純にメーカーが自社製品の価値を
    保護する為に作った規約に従って処分してるに
    過ぎない。キティーやミッキーマウスの商品価値が
    下がらないようにメーカーが動くのと差はないよ。
    まあ声を提供した声優の保護って側面ももちろんあるが

    またニコニコは画面クリックしただけで、違反報告が
    簡単に出来るシステムだ。アンチだのマンセーだの
    語ってもそれこそ意味ない。消されたくなければ違反
    するなって話だ。デPが確信犯だったのを知らないわけではなかろう。

  6. rerofumi Says:

    なんか全部まとめて
    「そんなことさせたらミクが可愛そうじゃないか!」
    で良い気がしてきた。
    「ミクはそんなことをする娘じゃない!」
    「もっと温かい歌を沢山歌わせてやれ!」

    んでそれが通用しなくなったときはミームとしての初音ミク(やボーカロイド達)が存在しなくなったとき、と。

  7. SHIDA Says:

    > そうしたアンチの行きすぎた行動の結果、クリプトン・フュー
    > チャー・メディアへの通告という形になったのだと考えている。
    > (おそらくは執拗な)通告をうけた以上、クリプトンもニコニコ動
    > 画もついには動かざるを得なくなったのではないかと。

    こうした論旨って他の方のレビューでも同じように述べられている
    のですが、執拗な通告をうけた「可能性」を前提とするのに、どうして
    権利者側が「黙認のレベルを超えていると判断せざるを得ない」と
    思った可能性は無視なんでしょうか? というか、本件に関して、
    後者だと思われなかった根拠は何でしょうか?

  8. rerofumi Says:

    SHIDAさんが疑問視している点がつかみ切れていないのですけれども。要するに、通報をうけて削除に至ったという事実の以前に「存在は知っていたのだけれども黙認していた」のか「通報により初めて存在を知って即削除要請を行った」という二つの状態があり得るということですね?どちらも憶測でしかないのだけれども、皆前者を期待しているのはなぜなのかと。
    私が前者を期待しているのは
    ・一連の楽曲で最も古い投稿が 2007/9/28 であること
    ・作者がVOC@LOID NIGHT2等にも出ている名の知られた存在であること
    以上から、流石に知っているんじゃないかな(=これまでは気にしていなかったんじゃないか)と思ったからです。この辺は本当に憶測でしかないのでなんの説得力も持ちませんが。

Leave a Reply