Windows8 が垣間見せてくれるもの

Windows8 が発売となった。
完成度が高く評価されていた Windows7 に対して、今回の8は見た目的にも大きく変更があり、世間もその事に対して色々と揺れている模様。
発売に伴いこの Windows8 と主に新しいUIについて触れていたが、なんとなく「なぜこうなっているのか」という部分がわかってきて自分としては大分良い評価に傾いてきているのでその辺をつらつらと書いてみたい。

■ 最悪の印象だったConsumer Preview
最初というと Consumer Preview の頃か、その頃からしばらくは私も Windows8 の改変項目が不満であった。
私が PC を使う目的は主に開発やクリエイティブワークといった創作のための道具としてである。なので、目的はデスクトップとなる。
新しいスタートやその頃はメトロUIと言われていた全画面を覆うアプリケーション、それらはエンドユーザーには良いのだろうと思えるのだが開発マシンには不要というか邪魔でしかない。
それでも実際試そうとして VMware の仮想マシンとして Windows8 CP をインストールしてみたのだが、これがまた悪かった。
デスクトップからスタート画面やチャームと言われるサブメニューを出すためにはマウスカーソルを画面の角に追いやるといったアクションとなる。しかし VMware ではマウスカーソルはシームレスにホストとゲストを行き来するために、端っこでカーソルが止まるのでは無く突き抜けてしまう。

このため何となく端っこにカーソルを持っていけばメニューが現れるといったものではなく、正確にメニューが出現するポイントをかすめる必要がある。
これが非常にイライラする行為であった。
デスクトップ内ではこれまで通りなので特に不満もないのだけれども、スタート画面やチャームなど新規に用意されたUIにアクセスする手順が非常に邪魔くさくてダメだこりゃと評していた次第。
開発を職にするプロフェッショナル用にあのメトロだかモダンだかいう新しいアプリ層を削ったバージョンを売ってくれないものかとかなり真剣に思っていた。

■ ショートカットキーと気づき
そんな Windows8 嫌いの私を変えたのはひとつの Blog記事であった。

「Windows 8の文句を言う前に使ってほしい“ソープへ行け”級ショートカットキー4つ」

Windowsは様々なショートカットキーやキー操作を持っていて、マウスが無くても大体の操作はできたりする地味で泥臭いけど有用な面をもっていたりするのだけれども、今回もいくつかのショートカットキーが用意されている。
新しく追加されたスタート画面やチャームメニューを開くショートカットが用意されているし、皆が愛してやまないデスクトップも Winキー+D 一発で飛んでいけるというもの。
なるほどと思い、ポインティングでのメニューオープンを諦めショートカットキーで飛んでいくようにしてみたら、これがかなり快適で今まで突っかかっていた Windows8 操作がざくざくとできるではないか。
結局のところ不満だったのはスタートメニューやストアアプリではなく、それらを操作する方法だったというのが何となくわかってきた。
そうして、メニュー間の遷移に戸惑わなくなったら Windows8 の良さが見えてきて「あれ?これひょっとしてかなり良いのでは?」とスタンスを大幅に変えることとなった。
ショートカットキーひとつで気づいた大きな目覚めである。
Windows8 を前にしたらまずはオフラインヘルプの「マウスとキーボード:新機能」の項目を一読することをお勧めする。

■ スレートPCでの印象

そして Windows8 が発売。
一番にアップデートするのは手持ちの Windows7 スレートPCに決定。やっぱりタッチパネルデバイスで使う Windows8 が真の姿なんじゃないかと思えるから。

手持ちのマシンは MSI の Windpad 110W。スレートPCでありながら Atomコアじゃなく、AMDのZ01(デュアルコア)というのと、スライド式タッチポインタ(マウス操作ができる)が付いているのが特徴。いくら良くなったといっても Windows を全てタッチパネルで操作するのは至難の業なので、ポインティングデバイス併用なのはありがたいのです。

スレートPCでいじっていると良くわかるのが「端からのスワイプ」というのが新しいUIとして重要なこと。
端からのスワイプというのは、画面の外から内がわに指を滑らせることで、このアクションによって各種メニューが画面の中にむにゅっと押し出されるように出てくる。
画面の中は既に既存のUIで埋まっており、アプリケーションもそこにいるので、新しくUIやメニューを追加する方法としてこの「端からのスワイプ」が導入されたことが見て取れる。
なるほどと思うのだがこれは確かにタブレットデバイス限定のアクションである。これをマウスやトラックパッドといった既存のポインティングディバイスでやろうというところに無理があり、その代替として画面角に押し付けるとメニュー出現などという奇妙で心地よくもないインタフェースになったのだろう。
なのでこういったメニュー出現に関しては無理にマウスで操作するのではなくショートカットキーに頼るというのがやはり正解な気がしてきた。

もう一つ気が付くのがスレートPCでの動作がやけに軽快なこと。
Windpad はデュアルコアといってもクロック周波数は 1GHz 程度で十分非力なマシンである。Windows7 も案外動くじゃんといっても流石にひっかかりを感じることは多かった。
その PC の上で動く Windows8はどうかというと、これがかなり軽快なのだよな。それまで Windows7 を動かしていたのだから対比で感じとれる。特にモダンUIと呼ばれるスタートメニューとストアアプリ群。これが、この 1GHz のAPU でさくさくと操作ができるのだ。
デスクトップに降りて chrome などを開いてみると重たくて、こいつが非力なマシンだということを思い出すのだけれども、標準のアプリやUIはかなり軽快に作られているのだと思う。
ARM CPU のタブレットデバイスもターゲットにして作られているというのでそれなりに小ぶりなものに設定されているのだろう。

逆に言うとデスクトップに降りるといままで通りのPCといった感じ。
テキスト入力欄をフォーカスしても自動的にソフトキーボードがでないとか、アイテムが小さくてタッチじゃなくポインティングデバイスが必要になるとか、そういった従来の Windows の問題もそのままある感じ。
このスレートPC に Windows7が入っていた時は「ああ、以外と使えるじゃん、でもちょっと無理して使っている感じがあるのよね」だったのが、Windows8 になって「問題ない、使いやすい」に進化した感はある。
そういう意味でも対比できるこのスレートPCで体感できたのは良かったと思える。

■ 起動は速くなったのか
Windows8 の売りのひとつが起動の早さとなっている。
BIOSとの連携もあるのだろうけれども、電源を入れたら本当に数秒でポンとウェルカム画面が出てきてびっくりするくらい早い。
しかし、これまで起動時間というのは何で計っていただろうか。そこにタネが潜んでいる。

私は起動時間というと、電源を入れてログイン画面がでたらすぐに入れ、デスクトップが表示された後全サービスが読み込み終わるまでをみている。デスクトップが表示されて、左下にアイコンがぽこぽこと増えていく途中はまだ起動中で、全サービスと常駐タスクが落ち着いてHDDのアクセスが途絶え始めたら完了なのだ。

で、Windows8 を使っていると気がつくことがひとつある。デスクトップは、スタート画面から選んだ時に初めて読み込みが始まるのだ。

これに気がついた後、起動の過程で結構待つ場面があるのを見つけることができる。
最初のログインパネルはパッと表示されるが、即座にパスワードを打ち込み始めると裏で何か読んでいるらしく偉くもたつく。そして、パスワード入力が早いとそのあとの「ようこそ」で結構待たされるのだ。
その後スタート画面が表示されるのだが、最初のログインパネルの表示からトータルでみると結構な時間が経っている。単にユーザーがパスワード入力している時間がそれなりにあるので、その間本当の起動を裏で行っているということだろう。
そしてデスクトップはさらに遅延されスタート画面から選択されたとき始めてユーザー毎のサービスやらなんやらを読み込み始める。

つまりこれまでの起動時間という奴をいくつかにスライスして遅延させまくることで気にならないように演出しているのだ。

そのように見ていくとスタート画面とストアアプリの立場が良くわかってくる。これはいわゆるところの「インスタントOS」に当たるのだな、と。
モダンUIなストアアプリはデスクトップアプリに比べフルセットではない分軽量になっているのは、フルが必要無い人にインスタントで提供してあげる環境なのではないだろうか。
フルセットが欲しい人はそこからまた時間をかけてデスクトップを立ち上げて従来のWindowsアプリを利用する。そんなユースケースのスライス化である。

メールや天気予報をチェックするのにフルセットのOSは要らないので、軽量でさくっと確認できるサブセットOSとアプリが欲しい。
そういった「手前」を済ませるのが新しいストアアプリなのだろう。

そういった前段階のインスタントOSとしてモダンUIを見ると、設定がこことデスクトップのコントロールパネルで分かれるのも無理はないという印象を持つ。
IMEや検索や共有がストアアプリとデスクトップで扱いが違うというのもその一環だ。

■ Windows8 のキモ
Microsoft は WindowsCE/WindowsMobile/WindowsPhone そして、Windows XP Tablet edition/Origami/Windows7 とずいぶん長いことタッチパネルOSと取り組んで来ている。その間に色々と苦しんできて、その上に Windows8 があるので、この新しいOSになんらかの思想を持ち込んでいるに違いない。特に今回は大きなUI変更も伴っている。
その目的を「あー、こういうことだったのか」と理解すると、ちょっとつきあい方が見えてくるのかも知れない。

私は Origami こそ買わなかったが、Windows XP Tablet edition に Windows7 スレートPCと結構つきあってきている。その過程を見ていると足かせになっているのが「Windowsそのもの」であることは言うまでも無かったりする。
そのWindowsそのもののなにが悪かったのか、を分析した結果が「起動速度(スリープからの復帰を含む)」と「従来のUIはタッチするには細かすぎる」という二点だったのではなかろうか。
デスクトップの前段、インスタントOS部分で済ませられる事があったらそれで済ましてしまうというのは理解してしまえば、まあそういう場面もあるかなと思って使っていくので無碍に不要とまでは考えなくなる。
そしてタッチで従来のWindowsアプリ全てが操作できるというのもそんなに思ってはいないことなので、タッチアプリ専用枠があっておおざっぱだけれども軽量、重たくてタッチ不向きだけれどもフルスペックとレイヤを分けてしまったのはずいぶん面白い構造だなと思う。
なんというか、Windows と DOS窓の関係というか。

端からのスワイプはその境界を繋ぐおまじないである。
これだけが新しいUIといっても良いだろう。だから Windows8 で覚えなければいけないのはこの「端からスワイプ」でメニューを出すという動作だ。
ただし、目的としてはチャーム等のメニューを出すためなので手段としてはキーボードショートカットでも構わない。

実は先日主力ノートPCが壊れた事もあって、Windows8 と同時発売の ASUS X202E というタッチパネル付きクラムシェルノートPCを買った。ちょっと試してみたい分には50000円という価格が手ごろすぎたので。

で、そのASUSのトラックパッドでびっくりしたのは、タッチパネルの様に外から内へとトラックパッドをなぞるとチャーム等の Windows8 メニュー操作になるのだ。はっきりいって凄い便利、Windows8 搭載機には全て標準で乗っていて欲しいくらい。タッチパネルが無い普通のノートPCでも快適に Windows8 が使える様になるよ、
これ ASUS Trackpad Gesture というアプリで最近の ASUS 機だったら最新版を入れると大体できるようになるようだね。

一方、スタート画面はこれまで階層構造だったものを平面に展開したのでちょっと冗長であまり良いとは言えない。平たくいって、アイコンが増えすぎて選ぶのがしんどくなる。
しかし新しいメニューの検索とか端々の機能は良くできているので慣れると結構楽しくはなってくるんじゃないかな。

■ いつまでマウスを使い続けるのか
マウスが発明されたのが 1961年だという。
XEROXでGUIと共に使われていた以来、コンピューターのポインティングUIとして50年に渡りマウスが使われ続けてきた。
安く作れて直感的、そして何より精度が出せるためマウスに変わる存在は必要とされてこなかった。
しかし、それゆえにGUIはマウスに縛られてしまい、マウスがコンピューティングを縛るようになってきてはいまいか。
タッチの方が直感的だからとか、タッチスレートが流行だからだとかそういったのではなく、Microsoft は割と本気でマウスやトラックパッドがコンピューターに付属しなくなった将来を想定している。ような気がする。




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