印税70%の世界、ほか

もちょっと頭の中で固めることができてから書こうかと思っていたのだけれども、電子出版について今あれこれと語るのが熱いみたいなので時期を逃さぬようメモレベルで書いておく。

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2010年1月21日に Amazon が Kindle Digital Text Platform の印税を70%まで引き上げるとの発表を行った(cnetの記事)。つまり Amazon が販売店として手数料30%をいただいて、あとは著者(掲載者)の取り分になりますよ、というお話。
この「印税70%」という数字が衝撃的だったらしく、各所で電子書籍と日本の有り様について語られ始めている。
問題はその70%という数字がどれくらい衝撃的なのかなのだけれども、私は何の感慨もなく聞いていた。なんでか。その世界は既に存在しているからである。
なにかというと、同人誌のダウンロード販売代行のこと。DLSiteとらのあなダウンロードストアメロンブックス.comやその他数十ある同人コンテンツのオンライン販売店。
これら同人コンテンツダウンロード販売サイトでの相場は手数料30%~40%が相場であり、その数字でかれこれ10年は運営されている。
当然ではあるが、紙の本を手にした方が嬉しいし、やはりイベント会場で作家から直に買えればもっとうれしい。けれども、なかなか手にする機会に会えない場合ダウンロード販売は強力な味方となりうる。それに、作家側から見ても印刷して紙の本をつくのには結構なお金がかかる。実際に本を売っても差額での利益は少ないものだったりもする。けど、ダウンロード販売なら手数料以外はほとんどかからないので率は良いし在庫切れもない。
なので、この同人コンテンツダウンロード販売は次世代オンライン商法のテストモデルとなりうるとして長らく注目し、利用してきた。(単に好きなだけだろというツッコミは置いておく)
もちろん、同人コンテンツの世界では作者が編集、装丁、デザインまですべてひとりで行うことが条件である。逆にそれができるのならば、印税70%の世界は既に存在しているのである。
また、逆に編集やデザインを他に委譲するこれまでの出版形態も残るだろうし、残ってもらわないとデザインワークができない人は困ることになるだろうね。DTPワークをすべて作者が行うことで、電子書籍の多くがへっぽこな装丁になってしまうという指摘はある意味正しいと思う。

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漫画雑誌は連載という形式で掲載し、ある程度まとまったら単行本を出すというモデルを続けてきた。
それにより雑誌掲載時は安めの原稿料しかもらえないけれども、単行本がでるとまとまったお金が入ってくることで作家はなんとかやっていけるとかいう微妙なモデルを作り出している。
それを逆手にとってというか、雑誌を持たないモデルも確立し始めてきた。つまり、無料のWEBコミックとして連載し人気があった漫画は単行本をだしそちらでしっかり儲けるというビジネスである。
FlexComixWEBコミックハイガンガンONLINEなどがそれらにあたる。
ガンガンONLINEはガンガンノベルズというラノベレーベルのカタパルトにもなっているから、もう少しいろいろなものを巻き込んでいる感があるかな。
私もWEBコミックハイで連載している「つぐもも」とか大好きで読んでいるんだけれども、単行本でたらやっぱり買っちゃうしね。この「つぐもも」の作者である浜田よしかづ氏は自分の執筆しているところ、つまり仕事風景をスティッカムでライブ配信していることでも話題になっている。
また、TVアニメという大きな広告をぶちあげて単行本の売上を伸ばしそこで稼ぐといったモデルもあるようだ。そのものじゃなくて、もう一つ大きな枠で全体的に稼ぐというか、これまでとはちがったマネーフローで稼ぐといった感じになりつつあるのかもしれない。

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同人誌即売会というと、昔はサークルのところに漫画出版者が名刺を持って訪れて周り新規の契約作家を探し回っていたという。でもここ最近は出版社各位そんな余裕はなくなり、編集もフリーの漫画編集会社が代理で受け持つことが多くなったとかでさっぱり数が減っていたとか。
その代わり昨年末名刺を持って絨毯爆撃をかましてたのが、携帯電話向け漫画配信を行っている出版社だったそうな。
携帯電話向け漫画配信というと大多数が女性向けのアダルトな方面だったのだけれども、ソッチ系が飽和かつ縮小を始めたのか一斉に「男性向け創作のブランドを新規に立ち上げそちらにも力を入れていきます」と言い始めたとか。
どうにも景気のよい話ではなく、原稿料がどんどん値下げされており1ページ3000円というのも本当の話らしい。既にある同人原稿を流すだけならともかく、そのために新規で書いていたのでは生活ができないレベル。おまけに、会社都合で締めは半年毎の年2回支払いで、大量に売れた時のインセンティブは数十万ダウンロード以上とかいう話も聞く。
まあすべての出版社がそうというわけでもなく、逆に出版社によっててんでバラバラというから携帯電話というメディアにおける相場というものが確立しないうちに進行していったのだろう。
ぜーんぶ伝聞なので間違った情報もあるかもしれないけれども、一応携帯電話サイトにてエロ漫画を今売っている友人から聞いたというか質問して裏をとった範囲。

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その昔、MP3を利用しているだけで泥棒扱いされた時代があった。だいたい1997~1999年ごろ。
MP3はファイルサイズが小さく、ダウンロード可能なサイズ故不正アップロードやダウンロードに用いられたのである。なので、MP3で音楽を聞いている人=違法コピー利用者というレッテル張りがされていたのだな。ちゃんとCDを買って自分の所有物を私的利用のためにMP3に変換していても、そしてそれを配布せず厳重に手元で管理していても泥棒と同等に扱われていたのである。今でいうとiTunesでCDをリッピングしただけで犯罪者予備軍とされる感じ。
確かそんな頃に書いた記事があったなあと掘り返してみたら、1999年6月の記事であった。

今は、まだ混沌としていても音楽のネットワーク配信や MP3 といったフォーマットは確実に定着していくと思う。 (キリッ

などとカッコつけてるなー、当時の自分。
MP3はともかくとして、この時に本をスキャンして上げるのはなんで問題にならないんだろうということを疑問として書いている。きっと当時は問題にしていなかったのではなくて、問題だと認識すらできていなかったのだろうな。
音楽の方は先に問題視することができて、DRM化、DRMの敗北、オンラインショップ化とこの10年で歩んでくる事ができたのだと思う。それもこれも 2001年にiPodとiTunesが出てきて、2003年にiTunes Music Store が始まったからであろう。これらが成功しこれまでを反省することでようやく芽吹くことができた。
じゃあ電子書籍の方は?DRM化とDRMの敗北は既に味わっているか現在進行中なところで、携帯電話というゆりかごの中もそろそろ終焉だ。ちょいとスタートは遅かったけれどもようやく始まりだすのかもしれないね。




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