タブレットPCについてそろそろ一言言っておくか

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2010 International CES ではタブレット型の電子書籍とAndroid搭載タブレットの話題で埋め尽くされていた。それと同時にAppleのタブレット型iPhoneへの期待も高まり発表前日といった様相を呈している。
ところで私はHPのTC-1100というタブレットPCを所有している。2004年と今からもう6年も前に発売された機種だ。当時はタブレットPCがコンピューティングを変えるとマイクロソフトが意気揚々として発表していたものだが現実としてまったくといって良いほど流行らず、その後”ORIGAMI”という二度目の失敗を経て今日に至る。
しかし、このTC-1100はさほど悪いわけでもなくむしろ名機であったとも考えている。PentiumM 1.0GHz と当時は十分過ぎるスペックだったものの、今では非力でAtom搭載機みたいに動作にワンクッション感じるため使いづらくなってしまった。でも、未だに手元に置いておいて時たまいじったりしている。
タブレットデバイスがようやく花開こうとしている今だからこそ、タブレットPCを振り返ってみようと思う。
なにごとも、故きを温ね新しきを知る事は大事。

■タブレットPCに望まれていたこと
私がTC-1100を購入したのは「液晶タブレット」としての使い心地を知りたかったからであった。
初代タブレットPCはタッチスクリーンの性能や液晶の発色も悪く、CPUも遅かったためエッヂな人以外ほとんど興味を示さないものだった。TC-1100も含まれる2世代目になると、液晶の発色が良くなりタブレットデバイスがWACOMのものになった。
タブレットPCのタブレットデバイスはマイクロソフト社の独自ドライバ経由で扱われていたため対応アプリも少なく有効的に使えるものではなかった。ところが、WACOMデバイスなら性能が良いのはもちろんのこと筆圧感知も扱えデファクトスタンダードなWACOMドライバー方式で読み取れる様になった。平たくいうと、WACOMデバイスを積んだタブレットPCならフォトショップで筆圧が使えるということである。
このメリットによってCintiqの様な液晶タブレットとして絵描きやデザイナーに注目された。が、フィニッシュワークとして使うには解像度が足りないとか精度がないといった理由でプロワークスのほうから次々に見放される。お値段も通常のノートPCよりお高いため、アマチュアワークスでは手が出せず購買層不在な状態となってしまうことになる。
まあ、実際主線書きや色塗りをタブレットPCでやろうという気にはならないけれども、おなかやひざに乗せてだらだらと構図を考えたり下書きを書いたりする分にはかなり有効なデバイスであった。そういった用途にはパワーもいらないため今でもたまに使っているほど。
実際のところ、マイクロソフトはビジネス用途でのタブレットPCを推進していた。アートデザインワークを想定していなかったので、アーリーアダプターを逃してしまった感はある。ビジネス方面においては紙のメモが使われる場面を置き換えたいという感じだったと思う。しかし、紙のメモを使っている人に、それ以上のメリットをタブレットPCで与える事はできなかったし、PCをばりばり使っているキャリアにとってはタブレットで手書き文字入力など煩わしいばかりであった。
タブレットPCを実際に使っているとわかるのだけれども、タブレットをテーブルの中央において相手に見せながらいろいろ書き込むといったスタイルでの利用はかなり有効である。小さなホワイトボードを持ち歩いている様なものだし、何ページでも書けて過去のページも見る事ができる。
有効であるからといって、実際に使えたかというと実は使えなかった。
説明しやすくてやりやすいのは本当なのだけれども、聞き手にとって打ち合わせ中に小さな窓をのぞき込んで凝視するという行為はやりづらいものなのだなこれが。結果として、タブレットPCは全然見てもらえない。
会社のミーティングエリアで小さなところだとPC用モニタが置いてあって、プロジェクターに投影する代わりに、そこにPCのプレゼン資料を写して打ち合わせをしたりすることがある。そういった場合でも、17型未満のモニタでは集中してのぞき込む必要があるため、やっぱりあまり見なくなる傾向がある。モニタの中を凝視すると、発言者の声に集中できなくなるんだよね。ペアプロとかでも同じで、モニターを見ながら説明をするにはある程度大きなモニターでないとならなかったり。
かといってタブレットPCに19型以上のサイズを求めるのも困難であろう。なので、タブレットデバイスはあくまで個人用のデバイスとなりそれをみんなに見せて回るといった場面は想定しないに限る。

■ペンかタッチか
タブレットPCは値段が高くて売れないという状況だったため、値段を下げるために薄膜抵抗型のパネルへとどんどん代替わりしていった。そのため、アートデザイン系では使えなくなり、ますます利用者が減ることになる。
ところでWACOMの電磁誘導型ペンタブレットデバイスには1つ大きな問題がある。それはペンでないと操作できないということ。薄膜抵抗だと指や爪でつついてもそれなりに動作するのだけれども、電磁誘導だと必ずペンを握る必要がある。
このためイージーアクセスのためのタブレットにはWACOMデバイスは向かず、タッチ・イコール・簡単という方向には向けなかったのは事実であろう。
最近のタッチパネルブームはこのイージーアクセスから始まっているので、タブレットPCの頃とは毛色が違っていると言えると思う。
タッチセンサーのトレンドが静電感知型になり、指によるオペレーションがいっそう軽快となったが静電感知型には1つ大きなデメリットがある。それはペンデバイスで書けない、書きにくいということ。プラスチックのペンをつついても反応しないし、帯電型の特殊ペンでアクセスしてようやっと反応するといった感じ。なので、点を指定する事が難しい。
もっと簡単にいうと、静電型で絵を描くのは困難。お絵かきカンバスとして利用することは難しいということ。
もう一つ、店頭で今時のタッチセンサー型PCを触るとすぐにわかるんだけれども。Windowsの閉じるボタンやメニューが「小さすぎて」操作するのが難しい。
電磁誘導型や薄膜抵抗型の時は、この小さくて押せない問題を「ペンでつつく」ことによりポインティングを高精度化して回避していた。ところが静電型ではそういった回避策が存在しない。
静電型は指によるタッチに特化しており、ソフトウェアやUIがそれに合わせて作られるといった向きになるだろう。そもそもで、小さくて押しづらいといった方が問題なのである。

■ガジェットとしての物理的な課題
タブレット型のデバイスはやはり手に持ったり、膝に乗せたり、寝っ転がったおなかに乗せたりと楽な姿勢でだらだらと楽しむには最高であると思う。
そういう風に使っているとやはり気になってくるのがガジェットの物理的特性。つまり、重たいとか小さいとかいったところですな。
そのなかでも特に「重たい」「厚い」という部分は日本人の多くが気にする点なのだけれども、まあこの辺バランスで多少重くてもなんとかなる場面もあったりしてそんなに目くじらを立てるものでもないかもしれない。
しかし、多くの場面でほとんど語られず、かつTC-1100最大の欠点である項目がある。「熱」問題である。
TC-1100はPentiumMだが、この頃はまだ高熱になるCPUを大排気量ファンで冷却というのが主流であった。なので、HDDも含めしこたま熱くなる。持てないほどではないけれども、長時間接していたら絶対に低温やけどを起こす程度。そしてそれを冷やすためにうるさいファンが常にまわり、ドライヤーよろしく熱風を常に吹き出している。
この熱がガジェットの取り回しに対して大きな制限を与える。まず、なにも考えずにぽてっと布団の上に置いたら「吸気口や排気口をふさいでしまう」。なので、利用中は常にここを塞がないようにと考えていなくてはいけない。また、熱いので長時間同じ姿勢でいることができない。
今時の携帯電話やスマートフォンも「懐炉」と揶揄されるくらいに熱くはなるけれども、常に熱いわけじゃないから大きく取り上げられていないのだと思う。
今後は体に近い位置で使うポータブルデバイスが主流になっていくだろうから、この熱問題も電池の持ちと同じくらいにというかおそらくセットで注目されていくのではないか。

■この先望まれるであろうこと
ある程度の軽さと熱を持たないことというのは物理的な要求項目になるだろうけれども、もっと本質な問題としてWindowsマシンではないことが必須項目になったのだろうと考える。
これまでは、豊富なソフトウェア資産を利用できるパワフルさで「Windowsマシンが小さく持ち運べたらイイナ」というお題目が唱えられ続けてきた。それ以外のOSを積んだガジェットでは「Windowsでできることができない」と敬遠され続けてきたのである。
ところがタッチパネルデバイスの時代になると、先に書いたようにWindowsのUIでは部品が小さすぎて押せないという問題が顕著になってきた。ではどうするのかというと、通常のWindows UIを持たないタッチ専用の専用UIをもったアプリケーションを「新規に作成」する必要があるのである。
これでは「Windowsの豊富な資産」という部分がオミットされてしまうことになる。どうせ新規に作成するならば、新規のタッチ専用GUIパーツを豊富に持つガジェット向けに作った方が良いといった事になるだろう。
00年代前半はWindowsがメリットだったが00年代後半からWindowsがデメリットになりつつある様な気がする。
タブレット型のタッチ操作で日常的にすいすい使える便利デバイスというものは、PCじゃないのだ。多分。
PCで行っていたことを持ち出すという概念を捨て、それ単体で楽しむということができたときにタブレット型のガジェットは成功するだろう。そしてそれを強力に支えるのがネットワーク型アプリケーション、いわゆるクラウドというインターネット世界なのだと思う。




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2 Responses to “タブレットPCについてそろそろ一言言っておくか”

  1. あたたん Says:

    もう遥か昔、PALM互換機の、TRGpro 持ってました。
    今思うと、あれはなんだったんだろうっていう・・・
    もう10年前なんですね。(^^♪

  2. rerofumi Says:

    そういった過去が積み上がって今があるのです…

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