おでんとゲームセンター

なんか不意に昔のエピソードを思い出してしまい、頭から離れないので書き留めておく。

大学卒業後、新卒でゲーム会社に就職した私はゲームセンターに置く様ないわゆるアーケードゲームの開発に従事していた。
その会社の社長が割と有名な暴れん坊で様々な逸話が残ってはいるのだけれども、開発の末席にまで怒鳴り散らすことはなく現場にはそれなりに接してくれていたと思う。無茶な要求とかはしょっちゅうなのだけれども、意図があっての指示なのでそれに沿う様工面することもできていた。
そんなこんなでさほど社長と衝突することもなく働いていたのだけれども、一度だけ徹底的に怒られたことがある。
開発の序盤、まだ商品としての体もできていないような頃。実際の絵が描き上がってくるのはまだまだ先の話だったので、適当な素材集から写真を持ってきて背景に表示したりしていた。それら写真に特に意味はない。
そんなときふらふらと見に来た社長が、その仮背景の一つを見て突然怒り始めたのである。
そのとき画面に表示されていたのは『おでん』の写真だった。

「ゲームセンターに遊びに来ているお客様は既に衣食足りた状態でいる。その次の娯楽を求めているのに、食欲に訴えかけて引きつけようというのは間違った考えだ。ゲームの中に食品の絵を出してはならん」

正確な言葉はもう覚えていないけれども、おおよそこんな感じの内容だったはず。
この言が正しいかどうか、本当に食べ物の絵は良くないのかとかいった是非については未だに私の中で決着せず、今日のようにたまに思い出してはぐるぐると考えてしまう。
しかし、この社長の言葉に含まれているポリシー「どのような人にお金を落として貰うのか」「俺たちは何を提供しているのか」についてはすとんと腑に落ちた。ああ、こういう視点を持っている人なんだ、と。
そういった見方をしたことがなかったので当時は偉く感心した次第。
それが正しいかとか、同調できるかとかはまた別のお話なのだけれども、個人的にこのエピソードはかなり気に入っており忘れることができない。




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One Response to “おでんとゲームセンター”

  1. 誤配屋(eno7753) Says:

    ビジネス書風に言い換えると
    「自社の顧客層を明確に定義できている」
    という状態ですね。
    経営者としてすばらしいと思います。
    でも、こんなときこそキャラクター指向設計/分析が
    生きるのではないでしょうかw

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