コメを噛め

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rerofumi の電子工作メモ

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第一回 『プリント基板をつくるには』

前知識。

最近の電子工作は半田付けの要らないブレッドボードのおかげでずいぶんとお手軽になりました。そのおかげでマイコンを中心に電子工作人口も広がったように感じます。
ですが、ハンダごてを握ってプリント基板に部品を半田付けしていく形式の電子工作も捨てがたいものがありますよね。プリント基板を使うと製作物が固定されたものになりますので、ケースに組み込む等作品として完成させる楽しみに繋がっていきます。
個人製作の一点ものである場合はユニバーサル基板を使うのが手軽で一般的ですが、配線が面倒という問題があります。
そこで自作のプリント基板が次のステップとして現れてきます。
プリント基板を自作することにより

  • 配線の手間を省略することができる
  • 適当なサイズに纏めることができる
  • 面実装部品を使う事ができる

といったメリットを享受することができます。
特に面実装部品は重要です。最近のマイコンやデジタル部品はフラットパッケージのものが多くなってきました。ちょっと気の利いた工作をしようとしたら面実装部品を避けて通ることができません。
そういった特殊な部品を使いこなして工作の幅を広げるためにも自作プリント基板にチャレンジしてみませんか。


■ 基板製作法あれこれ
自宅でプリント基板を製作するにも色々な方法があります。
今回連載で紹介していくのは CNCフライスという自動工作機械を用いての製作手順ですが、ここで改めて基板の自作方法を何点か振り返り CNCフライスで作成する手法の特色をつかんでみましょう。

1) エッチング+感光基板
銅箔を塩化第二鉄水溶液で溶かしてパターンを作る方法をエッチングといいます。銅箔面上に予めパターンとして残す部分をマスクとして書いておき、それをとかすとパターンが残るというのが基本となります。
その溶けない部分をパターンとして銅箔面に印刷するメジャーな一つとして、サンハヤトの感光基板を利用するものがあります。
感光基板は銅箔の表面に感光インクが塗ってあり、紫外線を照射した部分が現像ではげ落ちます。なので残したい部分をフィルム上に印刷したりマーカーで書いたりしたものを転写フィルムとして用意することになります。
プリンター印刷用のOHPシートを用いてパターンを印刷し、それを紫外線灯や直射日光で感光基板に焼き付けます。
パターンを感光インクに印刷できたら塩化第二鉄水溶液で溶かしてプリント基板を作成します。

2) エッチング+アイロン転写
エッチングの際のマスクは感光インクじゃなくてもなんでも良いです。
それこそ耐酸性のインクで直に描いても良いのです。
そこで、感光基板よりも安価に製作する手法としてアイロン転写法が考案されました。
これはページプリンターで紙に印刷したトナーをアイロンで溶かして紙から銅箔面にてんしゃしてしまうという手法です。パターンをページプリンターで印刷しておけばそれを転写することができるというわけです。
ページプリンターさえ所有していれば安価に施行できるのですがいろいろ条件が難しく技術を必要とします。

3) CNCフライスで切削
エッチングは銅箔を溶かしてパターンを作成しますが、溶かすのでは無く刃で掘って削り飛ばすことでパターンを作成することができます。薄い銅箔を薄く削ることができるのがフライス盤で、そのフライス盤をコンピューター制御で精密に動作させることができるのが CNCフライスとなります。
PC上でプリント基板のパターンを作成し、パターンじゃ無い所をCNCフライスで削り飛ばすように設計をします。そのようにプログラミングした動作に従ってCNCフライスに作業してもらえばプリント基板を作成することができるというわけです。

4) 製作会社に依頼
PCのCADで設計したプリント基板のパターンデータ通りに少数作成してくれる製作会社も存在します。もちろん、個人でも利用することができます。
プロが作るモノですので最も精度が高く様々なメリットがありますが、それなりなお金と時間がかかります。
ですが、自作プロダクトを夢見る身としては一回は利用してみたいものですよね。

■メリットデメリット
それぞれの手法のメリットデメリットを簡単に挙げていきます。
個人的な感想なので異論はあるかも知れません。

1) エッチング+感光基板
エッチング手法は材料が入手しやすく手軽に始められるのですが、塩化第二酸化鉄溶液(エッチング液)の取り扱いが非常に面倒です。
ちょいと手に付くぐらいなんともないのですが、その茶色い色がこびりつきもう取れません。周辺にこぼしたりしたら最悪です。服に跳ねたりしないように最善の注意を払って作業をすることになります。
また、廃液処理を行う必要があります。
反応前の溶液は鉄を強力に溶かしますので配管に流すことができません。反応後は反応後で酸化銅を含む溶液になっておりこれが猛毒ですのでそのまま環境に流してはいけません。そのため、処理剤で銅を沈殿させたあと濾過で除去し、廃液をセメントで固化して廃棄という非常な手間を取ります。
感光基板はフィルムを光で転写するので慣れると結構精度良くいけます。順調ならば 0.2mm 幅の線も作ることができるでしょう。
ただその転写がムラになりやすく、面積が広くなると均等に焼き付けることが困難になってきます。
転写に失敗とか良くするのですが、感光基板自体が結構高く1枚500~1000円とかなので何度もやっているとかなりコストに響く様になってきます。

2) エッチング+アイロン転写
感光塗料無しの銅箔板に対して行うため非常に原材料が安価で済みます。
アイロンでぬらしたプリントを押しつけて転写を行うのですが、この際ページプリンターのトナーと定着方法に影響されます。つまり、プリンターの種類によってできるできないがあります。
私が過去および現在所有しているページプリンターはブラザーの機種だったのですが、このブラザーのページプリンターはトナー定着が非常に良くアイロンを使っても転写できませんでした。
アイロン転写を行うのはCANONのページプリンターが最適と言われています。詳しくは調べてみてください。このために安いページプリンターを購入するというのも価格的にありなのではないかと思います。感光基板で数十枚とか作るコストで並ぶ程度なので。
あと、エッチング法は両方ともそうなのですが、ランドの穴を自分でドリルを使って開ける必要があります。これが地味に辛いのです。特にICなどの様にまっすぐそろった穴を綺麗にあけるのは気合いと技術が必要になってきます。
なので、エッチング法でやっているときはできるだけ面実装部品のみで済ますようにして、穴を開けないような設計をすることを目指していました。

3) CNCフライスで切削
機械が自動で製作してくれますので、設計したデータに対し正確に作成してくれます。準備に時間がかかりますが、あとはスタートで終わりまでほぼ待つだけです。数枚程度なら時間をかけるだけで生産することができます。
CADデータに従ってドリルでの穴あけ、および基板のカットも行えますので綺麗なプロダクトができます。
ただ、CNCフライス自体がそこそこ高価なので初期投資が大きくなります。あとは設置場所や掃除機ほどでは無いですが加工中の音も注意することになるでしょう。まあ、流石に防音箱無しで深夜回すのは難しいと思います。また、刃物を高速回転させて加工しますので怪我や事故には最新の注意を払う必要があります。刃は本当に鋭いので、ちょっとかすっただけでぱっくり切れてしまいます、怖いですよ。
フライスだけでなくCNCソフトや、その他ソフトなど操作に必要な手順も多くマスターが少々困難ですし、オペレートの技術も必要となります。
初期投資は大変ですが、ランニングコストは銅箔板のみなので非常に安く仕上がります。大体1枚150~200円くらい。
また切りくずも掃除機で吸って破棄するだけなので処理も非常に簡単です。多少銅片は混じりますが毒性はないのでゴミとして処理して大丈夫です。

4) 製作会社に依頼
プロに一任するので最も品質の良いモノが出来上がります。
自作プリント基板では作れないものとしてスルーホールがあります。本当の意味での2層4層といった多層基板は個人で作ることができず、製作会社に依頼する形となります。
ハンダマスクやシルクラベルの印刷も行ってくれますので、仕上がりも綺麗で半田付けもしやすい良質な基板となります。
当然ですがCADによるデジタル入校が基本となりますので、CADでパターン設計ができなくてはいけません。設計サービスを受ける手もありますけれども、それなりなお値段です。
精度と値段はバラバラなので一概には言えませんが10~20枚程度を製造するとしたら大体5000~25000円くらいになるところでしょうか。安いところは海外への発注で、製作期間もかなりかかります。
最終プロダクツとしてぜひ利用したい場面もありますが、それだけのお金と時間をかけて基板設計にミスがあったら大変な痛手となります。初期の試作から依頼しようとすると相当な費用がかかってしまいます。
なので、自作基板で試作を繰り返し設計として完成されたところで製作会社に発注というのが理想的なパターンなのかな、と考えます。

自宅で作成するプリント基板は試作なのだと思います。
その試作を安く短時間で回数重ねられて、かつ製作会社に出す一歩手前なほどの精度を出せるとすばらしいのではないでしょうか。
そのためのプリント基板製作術としてCNCフライスでの製法を追い求めてきました。
個人的は十分と思えるところまでできるようになったので、その手順をここで書き記していきたいと思います。
この後の連載にご期待ください。

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